· 

碧い夜

 中学時代の私の部屋は、物置だった。

 庭付き戸建てではあるが、市営住宅なので、勝手に増築は出来ない。

 だが、物置は、黙認されたいた。

 よって、私の部屋は、物置なのだ。

 約3畳の部屋は、廃材とベニヤ板だけの簡素な作り。

 それでも、自分だけの空間を持てたことに、うっきうきだった。

 夏は、途方もなく暑く。

 冬は、心底凍てついた。

 自分の部屋へ行くためには、一旦外へ出なければならない。

 冬は、とてつもなく寒かった。

 でも、たった3畳の部屋は、ストーブを焚くとすぐに暖まった。

 あの頃、深夜ラジオ番組が流行っていた。

 しかし、周囲を山に囲まれていたので、雑音ばかりで聞き取れない。

 ラジオを聴きながらの勉強に、密かな憧れがあったが。

 早々に、断念した。

 ラジオだけでなく、勉強もだ。

 あの狭い部屋で、一体何をしていたのだろう。

 

 部屋の窓は、すりガラスでカーテンは付けていなかった。

 隣の家の外灯が消されると、真っ暗闇だった。

 ただ、雪に覆われた月夜は、すりガラス越しでも明るかった。

 ある晩、夜中にドアがぶつかる音で目が覚めた。

 寝る前には、確かに鍵を閉めたはずのドアが風に揺れてぶつかっている。

 いや、風はない。

 そおっと起きて、ドアを閉めた。

 布団に戻り、ぼんやりと窓を見ていると。

 すりガラス越しでもわかる碧い光が感じられた。

 まるで車のヘッドライトに照らされているようだった。

 碧い光は、次第に強く大きく煌めく。

 月明かりなのか、それとも別次元の光なのか。

 夢なのか、幻なのか。

 不思議と怖くはなかった。

 だが、窓の向こうに広がる世界を確認する勇気はなかった。

 碧い光は、次第に遠のき、私の記憶も途切れている。

 そんな夜は、一度ではなかった。

 気がする。

 そう、ちょうど今頃の季節だ。

 

 あれは、私の夢の世界だったのだろうか。

 それとも、私は月と交信していたのだろうか。

 「碧い月」

 それは、冬の真夜中に体験した光である。