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北の山に登る

 日付が変わった頃から、眠れない。

 おそらくそうなると思っていたので、それほど慌てない。

 3時間は熟睡したので、体力的に問題はない。

 うつらうつらしても、突然覚醒する。

 あ〜あ、大きな山に登るときは、いつもこうだ。

 原因はわかっている。

 自信がないのだ。

 前回の登山から、1ヶ月経っており、ランニングもウォーキングもあまりしていない。

 だったら、せめて眠って体力温存させればいいのに。

 私の脳が、不安を煽っている。

 ふん、負けないもんね。

 眠れないときは、そういうもんだと思って、ただ横になって目を閉じる。

 午前3時45分、目覚ましが鳴った。

 少し気だるいが、ま、大丈夫だろう。

 準備をして、昨日買ったパンで、軽く朝食を取る。

 早朝4時に食べるのは、ちょっとしんどいが、少しでも口に入れていた方がいい。

 午前5時少し前にフロントに降りる。

 エレベーターで一組の夫婦と会う。

 もちろん登山装備。

 フロントで朝食用のおにぎりとお茶を貰い、送迎車に乗り込む。

 合計9名、4パーティだ。

 登山口に次々と人が集まる。

 最後のトイレを済ませ、いざ出発。

 この山には、避難小屋はあるがトイレはない。

 その代わり、携帯トイレ用のブースが数カ所設置されており、そこで用を済ます。

 自分の排泄物は、自分で持ち帰る。

 最近の登山は、このシステムが多くなっている。

 携帯トイレは購入済み。

 山は、雲の中だが、もう、どうでもいいや。

 もたもたしていたら、みんな出発しており、ぽつん。

 いざ、私も出発。

 登り6時間のコースタイムだから、慌ててもしょうがない。

 登山口すぐの水場を越えると、もう、水は手に入らない。

 今回は、久しぶりにハイドレーションを使った。ミニホースでちゅうちゅう吸うヤツである。がぶ飲みしなくて済むのと、行動中いつでも飲めるので、3時間以上の登りに使うことが多い。

 ゴムの匂いがするのが難点だが、前日に薄いジャスミンティを入れておいたので、まったく気にならなかった。

 利尻山の登山案内では、水は2リットル持参するのを奨励している。

 万が一を考えて、水、お茶、スポーツドリンクと合わせて3リットル背負った。

 行動中は、ハイドレーションを使って、ちょこちょこ飲み、休憩の時スポーツドリンクを飲む。お茶はお弁当の時、と使い分ける。

 今回のもう一つの懸案事項は、靴である。

 靴については、もう、長いこと悩まされ続けている。

 通常履いている靴は、長時間には向いていない。日帰りだが、荷物もある程度重いので、靴もそれなりにしっかりした物が望ましいのだ。

 今回は、なんと、リサイクルショップで買った靴である。

 とはいえ、ちゃんとしたブランドの靴だし、私の足にはフィットしていた。

 だが、その靴で山に登るのは初めてになる。

 結果、靴下の選択をミスして、少しだけ靴擦れはあったが、すぐに絆創膏を貼り、大きな問題はなかった。

 靴下は、馬鹿に出来ない。

 値段に比例している。

 下調べによると、8合目までは、時間はかかるが難しいところはなさそうである。

 途中、雲の中を歩いているようなところはあったが、すぐに抜けた。

 その先は、ずっと晴天だった。

 ウッヒョー。

 日焼け止め塗ってきて、良かった。

 ははは。

 

 雲〜海。

 人工物がまったく見えない世界。

 サイコー

 8合目を超えると、次第にキツくなっていった。

 ここで、午前11時を過ぎていたら、引き返しましょう。と書いてあった。

 大丈夫、まだ9時前だ。

 追い越し、追い越され、ずっと似たような顔ぶれで繰り返す。

 9合目を超えると、さらにキツイが、単に長時間で疲れているからだ。

 だが、ここからが長く感じる。

 黙々と登る。

 登り続ければ、ちゃんと頂上に着くのだ。

 

 10時50分登頂成功。

 いやー、頑張った。

 ほぼコースタイムだが、休憩をずいぶんしたので、こんなもんだろう。

 疲れすぎて、あまり食欲もないが、雲海を見ながらお弁当タイム。

 おにぎりの味が薄く感じるので、塩分たりてないかも。

 前日買った塩おかきを食べつつ、塩分補給。

 トマトとパイナップルを冷やして持ってきたのが、泣けるくらいうまかった。

 あ〜しあわせ。

 頂上で約1時間楽しんだ。

 さぁ、下山だ。

 慌てず、しっかりと踏みしめて。

 下りが苦手なので、慎重に。

 相変わらず、同じような顔ぶれで、抜いたり抜かれたり。

 風景や植物も楽しみつつ。

 途中、シマリスくんと遭遇。

 そうそう、この島にはクマはいないので、その点は安心だ。

 ごくたまに、泳いでくる強者がいるそうだが、海岸で阻止されるらしい。

 樹林帯に入ってからの下りが、地味にキツイが、ゴールはもうすぐさ。

 

 ほぼ登山計画通りにゴールイン。

 いや〜、長かった。

 午前5時10分にスタートして、午後4時15分に到着。

 その間、トイレへは行かなかった。

 携帯トイレは使わずに済んだのだ。

 2リットル近く飲んだ水分は、全部、汗で出てしまったらしい。

 ちょっとビックリ。

 程なく宿のお迎えが来た。

 振り返った山には、雲がかかり始めている。

 温泉で汗を流し、夕飯へ挑む。

 生ビールが全細胞に染み渡り、もう、どうしようもなく美味かったのだけは特記しておこう。

 

 これで帰らないよ。

 翌日は、礼文島へ渡るよ〜

 

 つづく