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北へ向かう

 日本百名山を制覇しようなんて、これっぽっちも考えてはいないが、気になる山はいくつかある。

 最北って言葉に弱いのだが、北海道利尻島にある利尻山もその一つ。

 標高は1721mと、それほど高い山ではないが、登山口の標高が150m程度なので、標高差が1500mを超える。これは、磐梯山を2回登った位の感じである。距離も倍近い。

 途中避難小屋はあるが、基本日帰り登山なので早朝出発になる。何しろ登り6時間、下り4時間がコースタイムである。途中休憩を考えると、多めに見て12時間は必須のロングコースとなる。その時間を考えると、登れる時期は、夏の日が長い時期が最善となる。

 う〜ん。

 一番の問題は、遠い。

 最北の地であるのは勿論だが、島であるために、とっても行きにくいのだ。

 福島空港から千歳へ飛び、利尻島へ飛ぶのが一番簡単である。

 千歳から利尻までは、季節運行なので6月から9月までなのだが、天気次第で欠航も多いらしい。そして、帰りは、利尻から飛行機だと福島行きの便には接続しないので、千歳泊まりになるか、仙台まで飛んで新幹線で郡山へ戻る。稚内まで船で行って千歳便に乗る手もあるが、これも時間との勝負になる。そもそも登った日に帰ることは不可能である。山に登るには、天気が重要なので予備日も設けなければならない。せっかく遠くまで行くのだから、観光もしたい。

 一番の大きな問題は、宿が取れない。ネットで見る限り、ほとんどの宿が一杯なのだ。空いているのは、一泊4万とかの高級宿だけだった。

 う〜ん。

 計画開始後、一度は見送ろうと思った。

 体力的に自信がなかったし、航空券も空席待ちになる。

 ありとあらゆる行き方を模索したが、最善策がなかなか見つからない。

 仕切り直して、8月末に変更しようかと考えた。

 が、しかし、そうなると台風の影響や日没が早くなる問題が出る。

 そうこう悩んでいるうちに、突然何かが吹っ切れた。

 よし、行くぞ。とりあえず行く。何とかなるさ。

 今回見送ったら、行かない気がする。

 航空券は、ギリギリで福島→千歳、千歳→利尻が確保できた。

 宿は、ダメもとで直接電話したら、割とあっさり予約できた。

 帰りのチケットは取らなかった。

 もう、成り行きに任せることにした。

 

 福島空港から千歳は、プロペラ機だ。

 空港まで車で行き、無事にチェックイン。

 いよいよだと待っていると、アナウンスで呼び出された。

 何と、利尻便が天候不良のため飛ばないかもしれないと告げられた。

 一瞬にして頭真っ白。

 どうなるかは、天候次第と言われたが、引き返すこともできない。

 天にお任せだ。

 晴天の福島を飛び立ち、一路北海道千歳空港へ。

 なるようになれー

 

 千歳に着くと、ギリギリまで分からないと言われ、ともかく待つしかない。

 緊張しても仕方ないのだが、先行きの不安から食欲もない。

 しかし、登山を控えているので、無理にでも口にいれた。

 モヤモヤしながら搭乗口で待つ。

 すると、条件付きで飛ぶことが決まった。

 着陸できない場合は、引き返すらしい。

 ま、それも運だ。

 定刻より30分遅れで離陸、あっという間に利尻島に近づいた。

 機長アナウンスで着陸できると流れると、乗客が一斉に喜んだ。

 そして、雲の中に突っ切り着陸。

 滑走路が短いのでものすごいGがかかる。

 無事駐機した時、拍手が起こった。

 何度も飛行機に乗っているが、着陸して拍手が起こったのは初めての経験である。

 無事着いて、よかった。と、心より思う。

 宿の迎えの車に揺られ、早めのチェックイン。

 朝7時半に家を出て、午後2時に宿に到着。

 飛行機に乗っている時間は、合わせて2時間半程度だが、随分と長く感じた異動だった。

 今日から三泊、利尻島に滞在だ。

 後から分かったのだが、利尻島の宿は、ネットにあまり部屋数を出していないそうである。地域がら、宿泊者の動きが決まりにくいので、直接電話をするのが一番らしい。しかし、ネット予約に慣れていると、直接電話をするのは、ものすごくハードルが高い。

 電話は苦手なのだ。

 とにかく、ついて良かった。

 お天気は、霧雨が時々降るどんよりとした曇りだったが、傘をさすほどでもない。

 お山はまったく見えない。

 天気予報は、次第に回復傾向だが、翌日の天気は微妙だった。

 移動での疲れもあって、山へ登るのは翌々日にすることにした。

 ここまで来たが、いい条件で登りたいので無理をしないことにした。

 

 つづく