手術に向けての準備が始まった。
基礎検査に加え、麻酔科、リハビリ科の説明があった。
手術は腹腔鏡で行われる。
お腹に4つ穴を開け腹腔内を広げ、おへその下を5センチほど切ってブツを出す。
万が一、病巣が大きすぎたら開腹手術になるそうだが、まず大丈夫だと言われた。
腹腔鏡でも開腹でも、術後の経過は3日くらいしか変わらないらしい。
不思議なのだが、がんと診断されても、手術と言われても、全く動じなかった。
ショックもなければ、恐怖もない。
よって、不安にもならない。
そりゃ、5センチとはいえ切腹するわけだから、相当痛いだろうと思う。
でも、傷の痛みは時間と共に回復するし、これまでの痛みから解放される方が嬉しかった。気がする。
それほどまでに、私は痛みに耐えていたんだと分かった。
手術前日、外科病棟へ移動した。
準備を全て済ませ、ぐっすり眠った。
何も怖くはない。
2021年12月13日(月)午前9時
歩いて手術室へ向かう。
荷物は、集中治療室一泊分だけを風呂敷に包んだ。
実に軽やかな足取りだった。
自分の足で手術室へ入り、手術台の上に横になった。
麻酔の針が刺さったと思った瞬間から、もう記憶はない。
名前を呼ばれ意識を取り戻すと、人工呼吸器が取り外された。
もう、集中治療室のベットの上だった。
お腹に鈍い痛みはあるが、どよんとした鈍痛だけ。
その痛みで、手術が無事終わったのだと悟った。
足には、マッサージ機のような空気で血流を促す機械が装着されていた。
腕には、点滴。お腹からは、ドレーン。下腹部には、尿の管。
上部から見たら、すごいチューブ人間だわ。
意識はしっかりしてる。
手術は、3時間半くらいだったらしいけど、その時間は、私の意識から消えている。
これっぽっちの記憶もない。
集中治療室は、賑やかだった。
機材の音もそうだが、常に声をあげている人もいる。
騒いでいるのは、概ねおじいちゃん。
よくもまぁ、延々と騒げるもんだ。と感心する。
少しだけ動いてみようとしたが、じっとしていれば痛みをあまり感じないが、動いた途端に激痛が走る。
やっぱり、ざっくり切れているだけの事はある。
傷の痛みより、同じ体制が辛かった。
その晩は、一睡も出来ないまま朝を迎えた。
早々にリハビリ開始。
今時は、手術の翌日から動かされる。
手足を動かし、起き上がる。
鎖骨あたりに激痛が走った。
同じ姿勢のせいかも知れないが、麻酔の影響で出る症状の一つなので、あまり気にしない。
少しずつ動かす。意識的に、手足を動かす。向きを変えようと思うが、それはかなりの痛みを伴うので、数センチ動かすのに苦労する。
今夜も眠れそうにないので、睡眠剤を頼んだ。
少し眠れた。
足のマッサージ機は、最初は気持ちいいと思っていたが、だんだん鬱陶しくなってきた。
リハビリで立ち上がるまで出来たが、血圧が下がったので、無理はしない。
その日の午後、一般病棟に戻ってきた。
1日ごとに回復しているのが分かる。
もう、がん患者ではない。手術の傷がある、怪我人だ。
ただ、リハビリを始めると血圧が下がってしまうので、あまり動けない。
手術後の痛み止めは、背中から直接入っている麻酔なのだが、それも、そろそろ終わりになる。それは、時間ごとに注入されるので、強い痛みは感じなかった。
が、しかし。
その麻酔が終わった途端に、痛みと吐き気との戦いになった。
お腹に傷を抱えながらの吐き気は、耐え難い苦しみだ。
麻酔を延長してもらい、症状は治った。
麻酔って、すごい。