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おもゆまで

 ステントが入った嬉しさで、友達にメールしまくった。

 食事が始まる〜。やった〜。

 と、その喜びは、打ち砕かれる。

 そう簡単に食わしてはくれない。

 1回目のステント措置から、鈍い痛みと血便があった。出血がなくなるまで食事の許可は下りない。

 そりゃ、無理に金属をねじ込むのだから、血も出るし、痛い。

 そこに、新しい下剤が追加された。ちゃんと出てるのにである。

 それが、体質に合わなかった。

 7〜8時間後に効果が出るはずなのに、飲んで小一時間でトイレへ急いだ。

 全く食事をとっていない状態の下剤は、拷問だった。

 次第に痛みが強くなった。夜中、痛みで吐いた。

 痛み止めと、吐き気止めで、徐々に落ち着いたが、明らかに下剤が原因だと思った。

 翌朝、すぐにレントゲンを撮った。

 ステントはちゃんと収まっているので、痛みは、ステントのせいではない。

 私がいた病棟は、消化器内科なのだが、入院患者の半数以上が高齢者だった。搬送された多くは、施設から運ばれているので、まるで介護施設のようだった。

 看護師は、看護の仕事より、介護の仕事の方が多い。寝たきりの患者も多く、おむつ交換がメインの仕事のようだ。その他は、私のような検査入院と投薬治療の自力歩行が可能な人が数人いただけだった。

 検査入院の場合、それほど緊急性がないので、あまり気に留めてもらえない。体調の変化は、自己報告しないと見過ごされてしまうし、忙しそうにしているのを見ると、ちょっとの変化で訴えるのを躊躇ってしまう。また、看護師によっても対応が違うので、訴える相手を選ばないと、適切な対応をしてもらえない。

 そんなことがあってはまずいと思うが、看護師のキャリアによって、対応は違うのが現実である。

 入院期間が長くなってくると、そんな現状も垣間見える。

 夜中に吐いた時の夜勤看護師は、それまでいい印象がなかったので、痛みが強くなっても、それを訴えずに我慢していた。しかし、夜中トイレで呻き声をあげていると、直ぐに来てくれたのだ。そして、中に入るや否や、背中をさすってくれた。その手は、とても暖かだった。スーッと気持ちが楽になった。しかし、痛いし気持ち悪い。

 その看護師は、直ぐに痛み止めの処置ができるように医師に確認を取ってくれた。

 吐き気止めもやりますかと聞かれた。

 てっきり飲み薬だと思い。

 飲めません。

 そう言ったら。

 飲ませるわけないでしょ。点滴ですよ。

 そう怒られた。

 潤んだ目で、私は頷いた。

 その夜は、それで落ち着いた。

 考えられる原因は、下剤である。

 私は、翌朝の下剤を飲むのを止めにした。そして、回診の時に主治医に訴えた。

 すると、じゃぁ下剤はやめましょうか。

 なんとも、簡単である。

 しかし、それで治ったのだ。

 ステント措置から3日目。やっと食事の許可が出た。

 とろとろのおもゆと具なし味噌汁。桃のゼリーとマスカットジュース。

 食事が運ばれてくると、バンザイをして喜んだ。

 実に2週間ぶりの食事である。

 ゆっくりと味わった。味気ないおもゆも美味しかった。味噌汁は、出汁が効いていて染み入った。桃のネクターを固めたようなゼリーは、泣けるほどだった。ジュースはもったいなくて、後から味わった。

 ところが、食事が始まったので、止めていた下剤を再び飲むように指示された。

 ステントで空間は確保できているが、詰まらない確約ではないのだ。

 朝食後、下剤を飲むと、程なくして腹痛。

 トイレとベットを行ったり来たり、日曜なので回診もない。昼の食事は、食べられず。いや、見たくもない。良くなる気配も無く、看護師に訴えたが、痛み止めは出来ないと却下された。横になるのもしんどく、ベットにもたれながら喘いでいると、夜勤の看護師がちょうど部屋に来て、やっと対応してもらえた。

 速攻、痛み止めを点滴してくれて、やっと治った。

 長い1日だった。

 昼間の看護師は、まだキャリアが浅く、担当医師と連絡の取れない日曜は、自己判断で痛み止めを処方するのを躊躇ったのだ。

 夜勤の看護師は、何より患者の症状緩和を優先させるため、直ぐに対応してくれた。

 ここで再び、看護師によって対応が異なるのを学んだ。

 その後、症状は落ち着き、下剤も飲まなくて良くなった。

 食事もおもゆから、お粥になり、おかずも付くようになった。

 そして、12月 1日(水)一時退院の許可が降りたのだった。

 20日間の入院生活だったが、本番は、これからである。