三春病院の内視鏡検査は、毎週金曜日だけだった。
水曜日に受診したので、最短で次の金曜に出来ると思っていた。しかし、腸閉塞を起こす可能性があったため、腸内洗浄する薬が使えない。通常、2リットルの薬品を飲んで、腸内を空にするまで排泄させるのだが、それを飲んでる途中で腸閉塞を起こしたら、検査どころか、緊急手術になりかねない。よって、徐々に食べる量を減らして、三日前から下剤を飲み、可能な限り排泄し、検査に挑むことになった。しかも、その検査もカメラが病巣までたどり着くのは難しいかも知れない。と脅された。
つまり、間違いなく病巣はあり、おそらく悪性である。
そう取れる言い方だった。
この時点で、大きな病院を紹介してくれればいいのに・・・と思ったが、ある程度の検査をしてからでないと、紹介状は書けないようだった。
そうなると、翌週の金曜日まで体調を整えるしかなかった。
よく噛んで、消化のいいものを選んで食べて、三日前からは、お粥だけか、柔らかく煮た素うどんのみにして検査用の下剤を飲むように言われた。
それとは別に、毎食後に飲む整腸剤と緩やかな効果の下剤が処方された。少しでも、詰まらないようにするためである。
柔らかく煮た野菜や豆腐、半熟卵、とりのささみ、うどん、おかゆ。それらをアレンジしながらの食生活が始まった。
幸い、その後腹痛は起こらなかったが、トイレの回数が増るので遠出はできない。
ま、それどころではないけどね。
私に動揺は全くなかった。
むしろ、これで、ハッキリするんだという、覚悟が決まった。
10月29日検査の日、午後4時からの予約だった。
午後の病院は、待合室の人も少なく、ちょっと気が抜けた感じだ。
早めに到着したが、すぐに検査室に呼ばれ、検査着に着替えるように指示された。
私の前には、高齢のじぃさんが検査をしていた。
じぃさんは、じつに和やかに、世間話などしながら検査を受けていた。
な〜んだ、案外軽くいけるんだ〜
大腸内視鏡検査は、かなり苦しいと聞いていたので、じぃさんの様子を聞いて、ちょっとホッとした。
じぃさんの検査は、数分で終了し説明を受けていた。
大きな問題はなかったようである。
さて、いよいよ私の番だ。
それほど広くはない検査室に、検査用のベットと機材が並んでいた。
検査医は、じぃさんの時のように、ハッキリした声で説明を始めた。
私は、ベットに横になり、検査体制に入った。
少しの違和感はあったが、これなら大丈夫そうだ。
と思ったのは、束の間。
カメラがカーブに差し掛かると、とんでもない痛みが襲ってきた。
はらわたをえぐられる。
と言う表現がピッタリなほどのエグい痛みである。
それでも、耐えた。
声をあげつつも、必死に耐えた。
看護師も、検査医も懸命に励ましてくれる。
もう少しですよ。このカーブを越えれば大丈夫ですよ。
しかし、尋常じゃない痛みである。
呼吸も荒くなり、意識が朦朧としてきた。
すると、看護師が手を握ってくれた。
そしてその後、検査医も看護師も、黙りこくってしまったのだ。
私の叫び声と機械音だけが、検査室に響いた。
一体どれくらいの時間だったのだろうか。
私には、30分くらいに感じたが、おそらく5分程度だったのかも知れない。
検査医がやっと口を開いた。
もう終わりますよ。
内視鏡カメラが引き戻されると、それまでの痛みは嘘のように消えた。
だが、すぐには立ち上がれない程に消耗してしまった。
恐るべし、大腸内視鏡検査。
検査後は、映像を見ながら説明を受けた。
何と、カメラはS状結腸までたどり着けず、その手前で何とか病巣を写し、かろうじてその一部を取ることが出来ただけだった。
病理検査に出すが、悪性でなくても手術にはなる。
と、言葉を選びながら説明してくれた。
いや、素人の私が見ても、顔つきが悪く、悪性にしか思えなかった。
ま、しかし想定内。
この時も、特に動揺はなかった。
ただ、ここから検査結果が出るまでの10日間が、何とも長い待機時間だった。
相変わらず、腸閉塞を起こさないように、消化のいい食べ物と下剤の服用しか、対処法がなかった。
食べる量は、通常の7〜8割になっていたが、食欲が落ちる事はない。
何しろ、痛くも何ともないのだ。
検査結果が待ち遠しかった。