飯豊山2105m
標高を基準にすると、べらぼうに高い山ではないのだが、そこにたどり着くまでが遠い山。
登山口は数カ所あるが、自宅から一番近い喜多方市の川入集落にある御沢野営場からのアタックに決まった。
山としての技術は、それほど難しくはない。数カ所岩場があるが、雨さえ降らなければ大きな問題はない。何よりも必要なものは、体力である。
このご時世なので、日帰りでアタックする人もいるのだが、それは、もう、半端ない体力保持者である。私のようなビビリのへなちょこは、十分な時間を確保して、無理のない工程にする。
本当は、7月の下旬に予定していたのだが、長梅雨の影響で断念。内心ホッとしたが、山行が消滅したわけではない。延期になっただけである。
生憎の雨続きでトレーニング登山もしておらず、毎朝のストレッチくらいでは、気休めにもならない。このままでは、頂上まで辿り着けないだろう。という心配ばかりしていても、何も解決にはならない。
とうとう、私は、ランニングを始めた。
歩くのは苦にならないが、走るのだけは苦手だった。マラソンする人の気持ちが全く理解できなかった。何しろ、小学生の時から、かけっこはいつもビリか、ビリ2である。走るという行為には嫌悪感しかなかった。
まずは、歩こうと思った。この辺りは、坂道が多い。そこを早めの足取りで歩くだけでも、トレーニングになると考えた。
初日、何となく、走るポーズでゆっくりスタートした。
ん!?
あれ。
私、走れるかも!?
およそ3キロくらいの上り下りを、歩くスピードレベルだが、走る事ができたのだった。
大粒の汗まみれになりながら、ちょっと気持ちいいとさえ思えたのだった。
驚きだった。やればできるんだなぁ。
万全のトレーニングとは言えないが、来るべきアタック日に備えることとなった。
とは言え、山行予定日に雨マークが付かないかなぁ、と内心逃げの感情も合わせ持っていた。
が、当日予報は晴天。もう、逃げられない。
いつも通り、緊張でよく眠れなかった。しかも、梅雨明け途端の猛暑である。
行けるとこまで。そう自分に保険をかけた。
2泊3日の山行が始まった。
今回は、テント泊である。山小屋は営業しているが、諸々の心配を抱えての宿泊は躊躇われる。どれほどの人が入っているかも分からないので、テント泊になった。
つまり、テントと寝袋、食糧を担いで行くのである。総重量10キロ超えの荷物を背負って、高低差1600m、累計すると2000mを登るのである。片道7時間。休憩を入れると、8時間は炎天下にさらされる。
まじか。アホなのか、私は。
湿度たっぷりの森の中をゆっくりとスタート。荷物のバランスが取れず、最初の30分でへこたれそうになった。行動食をポシェット(最近は、サコッシュという)に入れて下げていたのが、バランスの悪さの原因だった。荷物を一つにまとめ、ひんやりタオルを首に巻いたら、一気に調子が出てきた。
これなら登れそうだ。
30分置きに小休止をしながら、最初の目的地三国岳へと向かった。
その間、5時間超え。
去年の北岳だったら、もう、山小屋に着いている。
三国小屋の管理人さんに、ここに泊まって、荷物置いて、頂上アタックしたら?と誘惑されたが、あと、磐梯山一つ分登れば、テント場だと自分に言い聞かせ、出発した。
出発から8時間。無事、切合小屋のテント場にたどり着いた。
風もなく、穏やかである。休む間もなくテントを設営し、夕食の準備に取り掛かる。といっても、昼のおにぎりが残っていたので、保冷剤でキンキンに冷えたおにぎりとインスタント麺の夕飯である。きゅうりとトマトも冷え冷え。重かったけど、持って行って良かった。
トンボが多い分、小虫は少ない。
夕焼けを愛でつつの外でも夕飯は、最高の時間だった。
そして、満点の星輝く夜空が広がる頃には、もう、まぶたが落ちてきた。
つづく