すずらん
大好きな花である。
高校生の時、フランスでは、6月1日に大好きな人へすずらんの花を贈る習慣があると知った。バレンタインのチョコみたいなものかもしれない。どこでその情報を仕入れたのかは全く覚えていないが、日本ではまだ、ほとんどの人が知らないであろうその習慣に、心の奥がキュンとした。バレンタインのチョコは、誰でもやっている恒例行事だが、6月のすずらんは、もらった人も「?」と首を傾げるだろう。それがいい。「えっ?」と思わせるだけで、乙女心は満たされるのだ。当時の私は、密やかに、6月のすずらんプレゼント作戦を実行しようと目論んだ。
だが、しかし。
東北地方の南部に位置する郡山では、すずらんが咲くのは5月なのだ。6月1日には、花は落ちてしまっている。そりゃ、フランスとは、気候が違うわい。
そもそも、彼の国の習慣を真似したところで、想いが伝わるとも思えない。
あれから30年、結局一度も6月のすずらんを実行したことはない。
その代わり、庭にすずらんの花畑を作った。うまく育たず淘汰されたこともあったが、今は、駐車場で理想通りの花を咲かせている。
父の家を片付けていた時、庭の片隅で、たくさんの白い花を鈴々とさせているすずらんを見つけた。もう、そりゃぁりんりんと鳴っているようだった。ものすごく、ものすごーく嬉しかった。自分の好きな花を父が育てていたのだ。
私は、そのすずらんを移植した。それが、見事に根付いたのだ。
5月の陽を浴びて、鈴々と咲くすずらんは、とても愛おしい。
さて、なんともキュートな「アマビエ」が届いた。
今、話題沸騰中の疫病封じの妖怪である。本来は、絵を描いて人々に見せるらしいのだが、この子を作ってくれた人は、絵は得意じゃないので、作ってみました。とメッセージをくれた。
あまりのキュートさに、思わず「くすっ」と笑ってしまった。
心を込めて、丁寧に作られた「アマビエ」ちゃん。どこで番兵をしてもらおうかな。
「コロナ禍」という文字を多く見るようになった。「コロナか」と読むらしいが、ずっと「コロナ渦(うず)」だと思っていた。渦潮のように、巻き込まれたら抜け出せない。から由来しているのだと思っていたが、ある時気が付いた。サンズイじゃない、コロモだ!!「禍(か)」とは、災いを意味しているのだった。
ああぁ、思い込みと勘違い。
我ながら、笑うしかない。
とまぁ、人ってもんは、思い込んだら疑わない特性を持つ。しかも、その思い込みが正当である理由もちゃんと用意している。しかし、それは概ね勘違いであることが多いのだ。
自分のキャパなどたかが知れている。その中で正解を導き出すのは、容易くない。その前提で物事を見ていないと、いとも簡単に騙される。信じる事は悪ではないが、善でもない。疑うのではなく、その本質を見極めるためには、どうすればいいのか。未知数なものだと尚更、困難を極める。
思い込まない。
その一点だけでも心に留めれば、パニックの恐怖からは、遠ざかる。気がする。