ひと月早く、クロッカスが咲き出した。
季節を間違えた花は、冷たい雨に濡れている。
忘れないうちに、休暇のつづきを書こうと思いつつ、二週間が経過した。
まぁ、いつもの事だ。
誕生日ツアーで泊まった宿は、箱根、堂ヶ島、河津湯ヶ野の三つの温泉宿である。
箱根の宿は、二度目の来訪である。
これまで箱根に泊まったことは何度かある。さすが天下の観光地だけあって、どこもそこそこの値段である。観光ホテルタイプは好みではないので、建物が古くても、部屋数の少ない宿を選んでいる。温泉もかけ流しが好ましい。しかし、そういう宿は、気位が高く、よって、値段も高い。宿探しは、宝探し的な楽しみもある。写真やコメントに騙されずに選ぶのは、結構難しいのだ。
箱根の金時山登山を決めた時、箱根の宿は、すんなりと決まった。前回泊まった宿の印象が良かったので、もう一度お世話になろうと思っていたからだ。建物は古いし、設備も古いが、お風呂は極上だったし、料理も家庭的ではあったが、上品な味付けだった。と記憶していたからだ。そこそこ箱根価格だが、外れの一軒宿なのでとても静かなのがいい。迷わず予約した。
暖冬とはいえ、箱根の山である。そこそこ寒い日だった。数日前に降った雪が、北側に白く残っていた。日没後の峠は、アイスバーンになるだろう。
翌日の登山の下見をしてから宿に到着。風景が変わっているのに気がついた。台風19号の被害だった。建物ギリギリまで土砂が流れた跡が生々しく残っていた。宿自体に被害はなかったようだが、黒土が剥き出しの隣地を見ると、少しゾッとした。
この日は、貸し切りだった。通された部屋は、前回泊まった部屋と同じだった。その旨を告げても、特にリアクションはなかった。それはどうでもいいのだが、部屋は、恐ろしく寒かった。エアコンが震えるほどの音響で温風を吐き出してはいるが、ちょっと広めの部屋は、全く暖まらなかった。すでに布団も敷いてあり、今一つ寛げない。
あれ、こんなだったかな?イメージが違うような・・・・。
まぁいい。風呂に入れば、ぽっかぽかさ。
風呂は、相変わらず素晴らしかった。濁り湯で少し熱めのかけ流し。こじんまりとした浴場だが、極上のお湯だった。
風呂から戻っても部屋は寒かった。
どうも体調がイマイチだ。部屋の寒さなのか、寒気がするのか、判断ができない。楽しみにしていた夕飯も、あれ?こんなだった?全体的に味が濃くて、美味しいと手放しでは喜べない。それは、体調のせいなのか。
それでも、翌日の登山を考えて、頑張って食べた。部屋に戻っても、一向に暖まっていない。これは体調不良なのか?全力で温風を放出しているエアコンが不便だった。もう、寝るしかない。エアコン音の煩さにも辟易してしまい、スイッチをオフにして早々に布団に入った。
こんこんと眠った。部屋の寒さが心地よい眠りの手助けをした。私は、部屋が寒い方がよく眠れるのだ。温泉の残り熱も手伝って、布団の中は、ぽっかぽか。程よい冷気が顔を冷やし、頭寒足熱万歳な眠りだった。
翌朝は、スッキリと目覚めた。もう寒気はない。やはり、部屋が寒いだけだった。
朝食も、濃い目の味付けだったが、これからの登山に備えると思えば、許容範囲である。
早々に準備を整えて、チェックアウトした。
もう、ここへは来ない。
率直な感想だ。
たった二年で何が変わったのか。私の感覚が変わったのか。
そういえば、宿の方が嘆いていた。
アジアからのお客さんが増えて、設備の損傷が激しくなったと。
以前は、24時間入浴できたが、現在は、防犯と器物損害を防ぐため、11時で入浴を終えていると。
そうか、そうなのか。
ぞんざいなお客さんが増えれば、やる気を失う。
本来のもてなしの心は、伝わらない相手には、意味をなさない。
やればやるだけ、虚しくなるだろう。
その気持ちは、推測できる。知らず知らずに削がれていったのか。
海外の旅行者に頼る観光地では、仕方のない定めなのかもしれないと。
しかし、翌日泊まった宿で、その考えは、覆された。
いや待てよ。と。
つづきは、また次回。