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休暇

 富士山に登ろうとは思わない。

 富士山は、見る山なのだ。

 独立峰である富士山は、周辺の山の頂から望むと、その圧倒的美しさに思わず感嘆の声を上げる。何者にも邪魔されない力がみなぎってるのだ。特に中腹まで雪を纏った冬は、生っちょろい登山者を寄せ付けない威厳がある。

 雲の出にくい冬こそが、富士山ウォッチには最適である。

 誕生日の旅は、箱根の金時山に決めた。

 天気予報は、晴マーク。立春前だが、春のような気配さえあった。となると、雲が出やすくなるなぁ。と心配しつつ箱根へ向かった。

 関東に入ると、日差しはあるが、雲が多いビミョーな空模様。それでも、登るために行くのだから、そりゃ、登るさぁ。

 幸いにも、登山口からは富士山は見えない。頂上へ着かないとその容姿は確認できないのだ。コースタイムで70分。磐梯山に登るよりぐんと楽だ。雨の心配もないので、装備は軽い。コンビニのおにぎり1個とおやつ。お湯を入れた水筒とスポーツドリンク。オールシーズン登山者がいるので、登山道も整備されている。難しい箇所はない。

 本来なら、この看板の左側に富士山が見える。らしい。

 まぁいい。久しぶりの山歩きで、ものすごく気持ちよかったから。それでいい。

 冬の平日でも、次々と登ってくる。さすが関東、さすが箱根。頂上には茶屋もあり、名物うどんやキノコ汁が食べられるようだ。

 次回は、尾根を歩いて縦走しよう。

 午後1時には、駐車場へ戻り、次の目的地へと車を走らせた。

 今度は、西伊豆から富士山を愛でるのだ。が。当の富士山は、雲の中か。

 箱根を後にし、御殿場から東名に乗り、伊豆縦貫道に入り、土肥へ抜けた。海岸線をゆっくりと走る。目指すは、堂ヶ島。

 西伊豆は、アクセスしにくい立地のためか、ゴテゴテとした観光化はされていない。小さな漁港のある、坂だらけの町が点在し、昭和の香りが残っている。土手には、誰も取らない金柑がたくさん実っていた。

 平らな土地が少ないため、家の建て替えが出来ないのだろうか。落ち着いたトーンの町並みは、子供時代に育った町を思い出させる。

 途中の土産店で、不揃いの金柑を手に入れた。金柑は、コンポートにすると最高に美味である。今回の旅は、伊豆の柑橘類をゲットするのも目的である。

 菜の花が満開。半島は、もう春なのだ。

 標高1,212mの金時山から、海抜ゼロの海まで来てしまった。

 車の旅は、本当に便利だ。列車には、列車の良さがあるが、時間を気にしないで寄り道できる車の旅は、気軽でいい。

 二十歳の頃、東京から下田まで伊豆急行に乗り、そこからバスで土肥まで行った事がある。途中下車しながらだったか、直通がなく、乗り換えで途中観光したのかは、もう忘れたが、旅の大半をバスに揺られていたのを思い出した。あの頃は、車を持っている友人も少なく、レンタカーを借りるという発想もなく、公共交通機関を乗り継いでゆくのが旅行だと思っていた。楽しかったけど、今の便利さを知ったら、もう出来ないなぁ。

 宿からは、そりゃー美しい夕日が見えた。

 暖かな部屋と温泉。美味しい海の幸。

 巷を騒がせているウィルス問題でなのか、どこも人出は少ない。特に、アジア系のツアー客は全くいない。おかげで、西伊豆では大きなホテルが多いこの地区でも、静かな時間を過ごす事ができた。

 翌日、快晴。ただし、風強し。

 私は、洞窟が好きである。鍾乳洞もいいが、地底へ潜る感覚が好きなのである。暗闇は怖い。何がいるか分からない恐怖を拭うことはできない。それは、実態のあるもの、ないもの、に関わらずだ。正直、怖いと思っている。なのに、洞窟と聞くと、ワクワクしてしまう。西伊豆には、海蝕でできた洞窟がある。観光化された場所もあるが、おそらく、そこかしこにあるのだと思う。ただ、断崖が多いので、そこまでたどり着けない。残念である。だが、自然にできた洞窟とは別に、人工的な場所もあるのだ。土肥の金山は、有名だが、松崎には、室岩洞という石切場跡があるのだ。実に地味なのだが、この旅の第二の目的地は、洞窟探検である。探検というほどの探検ではないのだが、暗い洞窟には、消えかかった蛍光灯がチカチカしており、ライトを持って行かなかったことを後悔させるほどのスリル感があった。洞は、海側まで貫通しており、海に出ると、その正面に、なんと、富士山がデーンと見えていたのだ。強風で昨日の雲は、綺麗さっぱり飛ばされていた。

 富士山が見えるのなら、高いところへ行かなきゃ。

 雲見温泉にある烏帽子山へ行ってみた。標高162mだが、見上げる石段は、なかなか手強い。450段あるようだ。もちろん、登る。ぐんぐん登るよ。頂上には、浅間神社本殿が祀られている。その横の大岩に立つと、太平洋がドーーーんと見えるのだった。絶景かな。

 しかし、岩室洞も、烏帽子山も、誰にも会わなかった。どちらも、かなりレアな場所だったのね。

 なかなかどうして、記念すべき誕生日になったなぁ。

 最終日は、ド・定番の浄蓮の滝。

 ここも、観光客はまばら。滝壺をメインに映したら、どこか南国の島みたいな映像になった。コバルトブルーの水面がそう思わせるのかな。

 ここからは、順調に行けば5時間ほどで帰り着ける。が、どうしても、もう一度、箱根から富士山を見たくて、再び箱根の山へと向かったのだ。

 そして、ようやく最初の一枚になる。

 は〜あ、めでたし。めでたし。

 

 3泊4日の旅は、こうして楽しく終了。

 さて、今回の旅で利用した3軒の宿。これが、全て違った意味で面白かった。それは、次回お知らせいたしましょう。

 よって、つづく。