磐梯山の頂上付近が赤く紅葉している。
午前9時の八方台駐車場は、平日だというのに数台の空きしかなかった。続々と車が入ってくる。そりゃそうだ、最高の秋晴れだもの、みんな山へ行きたくなるよね。
準備を整えた人たちは、皆、磐梯山登山口へ消えてゆく。私は、その反対側の猫魔ヶ岳方面へ登り始めた。毎年の恒例ハイクである。
木漏れ日が揺れる森の中を歩く。木々のトンネルの先には、緩やかな坂道が続く。すれ違う人も滅多にいない。自分の熊鈴が歩調に合わせてチリリンと鳴っているだけである。見上げるブナの木がカサカサと木の葉を揺らすが、木の実はほとんどついていない。今年のブナは、不作のようである。熊さんの大好物なのに、大丈夫なのだろうか。などと、いらぬ心配をしてみる。
稜線で視界が開けると、猪苗代湖や磐梯山が見える。うっすらと霧が沈んでいる会津盆地がジオラマのようにじっとしている。10月だというのに、暑いくらいの陽気だ。飲料水を少なめにしたのを悔やんだ。まぁ、いい。今日は、のんびり歩きだから、何とかなるだろう。
今年は、二度も三千メートル級の山に登ったので、体が登山仕様になっている。猫魔ヶ岳への道は、ほとんど息が切れることもなく、休憩もせず楽々と登ってしまった。だが、目的は頂上ではない。その先にある猫石という場所なのだ。
頂上から一旦下り、また登り返す。これがあるから、頂上から先へ行く人はほとんどいないのだ。以前は、げんなりしたが、今日は、ものすごく足取りが軽い。こんなにも違うもんかと、ちょっと驚いた。
猫石からは、雄国沼が見下ろせる。今日は、飯豊までくっきりだ。照りつける陽を避けて座り込み、ポットに入れてきたコーヒーを一口飲んだ。蓋を開けたままのポットからは、コーヒーの香りが漂っている。私は、コーヒーをそのままにして、ちょっと早めのお弁当を食べ始めた。静かだ。トンボの羽音しか聞こえない。
ここには、大切な友が眠っている。いや、こんないい場所で眠ってるはずもなく、石の上をピョンピョン跳ねているだろう。彼女の大好きだったコーヒーの香りは、ちゃんと届いているだろうか。私がよそを向いているうちに、グビリと飲んでいるだろうか。
穏やかな秋の日、私はひとりで、心ゆくまで猫石でのランチを堪能した。
久しぶりの自分だけの休日だった。しかも、素晴らしい秋晴れ。楽しかったぁ。