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洞窟

 いつの頃からか、洞窟に魅かれるようになった。

 確か、小学4年生の時、阿武隈洞の近くにある「鬼穴」という天然窟に行き、あまりの怖さに入り口から2メートルも進めず、ずんずん奥へ入って行く同級生を勇敢と思うより、どこかの神経が抜けてるんじゃないかと思い込んだほど、暗闇が恐かったのにだ。何しろ、真っ暗闇で眠ることができず、豆電球を消すことは死を意味するくらいの度胸なしだった。得体の知れないものへの恐怖心は、ゴム風船のごとく膨れており、破裂するかもしれない不安との同居により増幅し、私は、ものすごい小心者のビビリであったのだ。

 あれは、当時流行っていた探検もののテレビ番組が影響していたのかもしれない。さもない洞窟を、さも世紀の大発見のように煽り立て、人類未踏の洞窟へいざ!!的な演出でミステリアス感を前面に押し出し、少年の心を鷲掴みにしていた。つまり、私の兄は、その類の番組が大好きで、チャンネル権のない私は、兄のセレクトに従うしかなく、狭い家の中では、逃げ場もなく。目をつぶって映像を見なくても、デフォルメされたナレーションは耳に入ってしまい。頭の中は、自分の知っている限りの恐怖に覆い尽くされる。それが、毎週のように繰り返された。

 それなのに、いつの頃からか。

 日常の生活空間から完全に遮断された世界が、わずか数メートル進んだだけで味わえる洞窟を好むようになった。洞窟なんて、自然界の単なる偶然で出来上がった空間なのだが、そこは、大地の懐に抱かれるような安心感と、飲み込まれてしまいそうな底知れぬ不安感が混じり合う場所であり、手っ取り早いゲンジツトウヒ感を味わえるのだ。

 おそらく、必ず戻れる事が確約されているから、私は、洞窟へ入るのだと思う。どんな暗闇でも、手許に灯りがあるから恐れないのだ。そして、そこから抜け出たとき、陽の光の恩恵がどれほど素晴らしいかを感じるのだ。

 念願だった、船で行く洞窟へ行ってきた。

 わずか20分のクルーズだったが、海と洞窟を堪能してきた。

 行きたい所へ行ける幸せ。そんな時間を持てるようになった今に、感謝しよう。

 さて、次は、どこかな。