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冬が来た

 遠くの山々がうっすらと雪化粧。この時期の雪は、根雪にはならない。朝どんなに冷え込んでも、日中は、そこそこ気温が上がる。ざっくり立ち上がった霜柱も、踏みしめるともろもろと崩れる。太陽が昇れば、凍てついた土は暖かさを蓄えようとするのだ。

 そこを、ザクザクと歩くのが好きだ。

 やっと自分のための休みが取れるようになって、水曜のたびに、これが最後の山歩きかなと思っている。でも、そうやって、毎週、どこかしらの山を歩いている。この時期、出くわす人はまずいない。イノシシが這いずった跡を眺めながら、熊のいない阿武隈山系を、それでも、熊鈴を鳴らしながら、一人で黙々と歩く。

 ほとんどが1時間足らずで頂上なので、山登りというより、山歩きなのだ。誰も、だーれもいない森を歩きながら、ブツブツと独り言を言っている。ちょっと、ヤバイ人に見えるかもしれない。でも、誰もいないからいいのだ。

 最近わかったのは、このひとりブツブツ歩きで、もやもやしている心の淀みや、どうにもならない思い込みなどが、森に吸い取られて浄化され、頂上での深呼吸で新しい空気をいっぱい吸うと、あら不思議。何を悶々していたのかと、全てがアホらしくなるのだ。そして、頂上で飲むコーヒーの美味さこそが、生きている証だと思えてくる。

 静かに冬を迎えている森としては、随分と迷惑な話だとおもう。けど、まぁ、大目に見てもらおう。
 そうやって、今週もリフレッシュ。と思って向かった先は、積雪10センチ近く。冬装備していないから、潔く諦めて、別な場所を歩いてきましたとさ。

 ここも、貸切。雪混じりの西風が上空を吹き抜け、バラリと溶けかけの粒を撒き散らしたりもしたけど、合間に見える青空は、もう、どこまでも青く冬の到来を感じさせた。